妙通寺住職の法話⑦

 

  情けは人の為ならず~因果応報

 

 皆さんも「情けは人の為ならず」という言葉を聞いたことがあると思います。実はこの後に続く言葉があるのをご存知でしょうか。
 「情けは人の為ならず めぐりめぐって己がため」
というものです。
 よくこの言葉の意味を説明するとき、落語の「佃祭」というものが引用される場合があります。
 古典落語ですから、本来は、江戸っ子風に、「するって~とな~」などとお話をしなければならないのでしょうが、私には、そういう特技はありません。少し退屈かもしれませんが、物語風に、この古典落語の内容を大まかにご紹介します。

 

 ある年の、夏、ようやく季節が巡ってきまして、今年も佃の祭の当日となりました。祭り好きな神田・お玉ヶ池の小間物屋・次郎兵衛さんは、朝からソワソワです。
 焼き餅焼きの奥さんから

「あんた、そんなにソワソワして、お祭りが、白粉をつけて待ってるでしょ」
などと嫌みを言われても一向に平気で、白薩摩に茶献上の帯という涼しいなりで、いそいそと出かけていきました。
 一日かけて祭りを見物して、気がつくと、もう暮れ六ツとなり、渡し舟の最終便はもう満員です。これに乗り遅れると、今晩中には家に帰ることができなくなります。次郎兵衛さんは船頭、なんとか頼んで無理矢理に乗せてもらおうとしておりますと、
「あの~、もし……」
と、袖を引っ張る女がいます。
「なんだ、あんた。あたしゃ急ぐんだ」
「そりゃそうでしょうが、ちょっと~」
「なんだよ、あんた」
ちょっときれいな女性でしたので、なんだかんだ、やりとりしていると、舟は出ていってしまいました。
「ちょっと、どうしてくれるんだ」
と女に文句を言いますと、女は丁寧にお詫びをして、声をかけた理由を説明しました。
「実は三年前、奉公先の金を紛失してしまい、自分の稼ぎでは、とうてい、返すこともできません。申し訳なさに、本所一ツ目の橋から身を投げようとしていたところを、あなたさまに助けられ、しかも、無くしたお金の一部にするようにと、五両ものお金を恵んでもらいました」
というのです。その時、次郎兵衛さんの名前を聞かなかったので、それ以来、なんとかお礼をしたいと、ずっと探し回っていたところ、つい先ほど、偶然にも渡し場で姿を見かけ、夢中で引き止めたというのでした。

 

 そう言われれば、なんとなく覚えがある、と次郎兵衛さん。

 女は、今では船頭の辰五郎と所帯を持っているので、いつでも帰りの舟は出せるから、ぜひ家に寄っていってほしいと願いました。
 帰りに送ってくれるならと、次郎兵衛は喜んで、女の家にやっかいになり、一杯やっていると、外がなんだか騒がしい。
 若い衆をつかまえて理由を尋ねると、なんと先ほど、次郎兵衛さんが無理矢理乗ろうとしていた渡し船が、高波によって転覆し、30人以上の人が土左衛門となって水辺に打ち上げられた、というのです。
 次郎兵衛さんはもう、びっくり仰天。もし三年前に女を助けなければ、自分も今ごろ間違いなく土左衛門だっただろうと、胸をなで下ろしました。
 やがて女の家に戻ってきた亭主・辰五郎は、事情を聞くと次郎兵衛さんに何度も礼を述べ、

「高波で、今すぐは舟を出せないから、夜明けまでゆっくりしていってくれ」

と言う。思いがけない好待遇に、次郎兵衛さんもご機嫌。

 一方、こちらは次郎兵衛の長屋です。沈んだ渡し舟に次郎兵衛が乗っていたらしい。町中が大騒ぎ。奥さんは半狂乱となりました。

「おしゃれな白薩摩を着ているから、直ぐに身元は知れようから、死骸は後で引き取る」

こととし、まずは次郎兵衛さんの供養のために、さっそく坊さんを呼んで、仮通夜を出す準備をはじめました。
 やがて夜が明け、辰五郎に船で送ってもらった次郎兵衛さん。お土産までもらって上機嫌。我が家がそんな騒ぎとも知らず、長屋に帰ってきました。読経の声を聞いて、はておかしいぞと我が家をのぞいて、びっくり仰天。自分の通夜をやっているではありませんか。驚いたのは長屋の面々も同じ。次郎兵衛さんの顔を見るなり、「幽霊だ」と大騒ぎ。
 次郎兵衛さんから事情を聞くと坊さんは感心して、

「損得勘定なく、他人を助ける。仏法でいう因果応報、めぐりめぐって自分の身を助けることになる」

と一同に説教したという。そういうお話でございます。
 このお話は、中国・明代の説話集「輟耕録」の中に、ひとつのお話がありまして、身投げの女を救い、その応報で、船の転覆で死ぬべき運命を救われたというお話と、実際に江戸時代末期に、江戸において祭りの見物客を乗せた船が高波によって転覆するという大事故があり、それらを元としてつくられた古典落語であるということであります。

 

 さて、心地観経というお経には、有名な言葉があります。
 「過去の因を知らんと欲せば現在の果を見よ。未来の果を知らんと欲せば現在の因を見よ」
と。
 よく、今、自分がとても悩んでいる。苦しんでいる。拝み屋さんへ行って、その原因を見てもらったら、自分はこれこれ、こういう武士の生まれ変わりで、人をいっぱい殺したから、今、この苦悩があるんだ、などと言われたという、そんな話を聞くことがあります。本当かどうか、あやしいものでありますけれども、しかし、このお経では、そんなところへ言って、見てもらう必要などはないんだと。

「もしも自分が、過去世で、どういうことをしてきたのか、それを知りたいなら、あなたの今の姿を見てご覧なさい。今のあなたの姿に、過去の振る舞いの一切が、如実に現われているではないか」

というのです。一方で、自分の未来を知りたい人も同じであると。

「今の自分自身の振る舞い、生活態度、仕事への取り組み、家族へのいたわり、そういう一切の今の姿を見れば、自分が未来に、どのような姿形で、どんな環境に生まれ変わるか、よくわかる」

んだよ。ということであります。
 日蓮大聖人は御書に、今、私たちが人間に生まれてきた。めぐまれている人、試練の人、子供の頃から苦労した人、大器晩成の人、いろいろあるけれども、一応、人間に生まれてきたというのには、また理由があるんだと。それは、私たちは過去世に三帰五戒という、そういう善い行ないをしたから、今、人間にある。
 三帰というのは、南無仏、南無法、南無僧といって、仏と法と、僧侶の宝に深く帰依していた。それが三帰ということです。もう一つの五戒というのは、不殺生・意味の無い殺生はしないという戒律。不偸盗戒・人のものを盗まない。不邪淫・邪な淫は結ばない。不妄語戒・嘘や悪口、二枚舌、おべっか。そういうことを言わないという戒律。そして不飲酒戒・酒を飲み過ぎて暴れたり、他人に迷惑をかける、そういう飲み方をしないという、当たり前の戒律であります。ちなみに、この五戒を損なう、大きく破ると、仁王護国般若経疏というお経には「人に在りては五蔵となる」とありまして、五臓六腑と言います。先ほど申しました五つの戒律を大きく破る人は、たとえ人間に生まれ変わってたとしても、生まれながらに五臓六腑に大きな障害が生ずると経文には書かれています。

 逆に、三帰五戒をきちんと護った人こそが、生まれ変わると人間になると、そのようにお経には書かれているわけでありまして、我々がそうなのです。
 ですから、私たちはその過去の行ないによって今がある。もちろん十人十色でありますから、それ以外にも、数え切れないほどの、それぞれの因果というものがあり、一人ひとりが背負って生まれてきた罪障というものあり、さらに私たちには家族や一族が、遠い昔から背負ってきている家としての因果というものもある。過去に侍だった家、農家だった家、漁師だった家、それぞれやはり違った罪障というものもあるのです。そういったものが、複雑に絡み合って、今の私たちがあるわけであります。
 そこで大切なことは、現当、「これから」ということです。やはり我々は、せっかく人間として生まれてくることができた。なのに、動物と同じような生活をしていては残念です。動物と人間と、一番の違いは、他人をいたわることができるかどうか。慈悲の心を持つことができるかどうかということであります。
 まず私たちは、人間としてまた生まれ変わりたい。ならばやはり、先ほど申しました、仏宝と法宝と僧宝に深く帰依をしていく。私たちの信心でいえば、南無妙法蓮華経の御本尊を大切にして、そして日蓮大聖人様という仏様の教えを信じ、そして日興上人以下、総本山の御歴代上人の御指南に信伏して、きちんと勤行・唱題・折伏をしていくといことです。また五つの戒律、これは、普通に常識をもって生きていけば、大概守れることでありまして、しいていえば、大聖人様は「わざわいは、口より出でて身を破る」。悪口を言ったり、けんかしたり、争ったり、そういう悪心の顕れとしての口を慎む。
 そしてもう一つ大事なことは、やはり、「情けは人のためならず」でありまして、私たちは世の中の、本当に我々より重く苦しんでいる人、苦労している人、そういう方々の幸せを願い、また具体的に一緒に信心をして、そういった人々の悩みを一緒に乗り越えていこうという活動。即ち、折伏を実践していくことが大切です。すると、折伏は最高の慈悲の振る舞いでありますから、そういう慈悲の行に心を尽くしていくことは、自分に必ず返ってくる。他人の為と思って尽くしていくと、いつの間にか自分自身の大きな福徳になっていくということです。
 本年も、もう半分に近づいてまいりました。今年の折伏目標を、きちんと成就していくために、今一度エンジンをきちんとかけ直して、ともどもに唱題し、がんばって参りたいと存じます。

 

 

 

毎月の行事

 

  ● 先祖供養 お経日  

      14:00/19:00

※日程変更あり・要確認

 

第 1    日曜日 

  ● 広布唱題会      

      9:00

 

第 2    日曜日 

    ● 御報恩 お講  

            14:00

 

お講前日の土曜日  

     ●お逮夜 お講   

            19:00

http://www.myotsuuji.info